やんちゃ盛りだった私の息子が、写真館で大人に変わった瞬間の話

幼い頃から、私の息子はとてもやんちゃで、私を驚かせたりするのが大好きな男の子でした。それは成長して青年になっても変わらず、良く言えば活発なのですが、悪く言うと子供っぽい性格で、息子のわんぱくぶりに振り回されてしまった事が何度もあります。

そんな息子が大学生になり、就職活動をする時期になりました。私は、息子には有名企業でなくていいから、サラリーマンになってくれればいい、と思っていたのですが…。ある日、息子から進路のことで話があると言われ、話を聞いてみると、なんと息子は、同級生がどんどん内定している中、全く就職活動をしていませんでした。しかも、息子は「友人の起業するベンチャー企業に協力したいから、そこで働く事にした」と言い出したのです。

私はとても驚き、息子の希望に対して猛烈に反対しました。正直、収入が安定しない仕事に就いてほしくなかったですし、私は裕福と言えるほど経済的に余裕がある訳ではなく、万一何かあったとき支えてやれる自信がなかったのです。しかし、息子は「この仕事が夢だった」「ここで働かなければ一生後悔してしまう」等と言って私の言葉を聞きいれようとはしませんでした。

結局、私も息子もどちらの意見も曲がる事はありませんでした。そして、事件が起きました。息子は話し合いを諦め、前触れもなく家出してしまったのです。家出と言っても、電話で連絡を取る事はできました。意外な事に、息子はアルバイトでかなり貯金していたようで、その資金を持って起業する友人の元へ身を寄せたようでした。しかし、その友人の事をまだ詳しく聞いていなかった私には、息子の詳しい所在を知る術がありません。息子の事が心配になった私は、すぐ帰るように言いましたが、既に後の祭り。息子は頑な意志で、「この仕事が軌道に乗るまで実家には帰らない」と言って、帰ってきませんでした。

その後、どうしようかと悩んだまま、3年が過ぎた年明けのある日、息子がひょっこり実家に帰ってきました。なんと、仕事が順調に安定してきたので、報告も兼ねて里帰りしたというのです。あまりに満足気な表情で悪びれることもなく、そんな話をするものですから、心配していたのに拍子抜けして、怒る気力も失くしてしまったものです。

3年分の話をするうちに、息子がふと、テレビに映った成人式を見て、「そういえば、忙しくて成人式も行かなかったな。」と言いました。見た目は3年前とあまり変わっていませんでしたし、実家に帰ってきた時の服装もカジュアルな私服で、私もこれまでのゴタゴタですっかり忘れていましたが、息子は既に20歳になっていたのです。

そこで私は、「じゃあ、改めて成人式をしようか。」と提案しました。成人式をするといっても、息子が何も告げずに家出してから、突然の帰省だった為、息子の体に合う成人式用の衣装は、着物どころか、スーツですら1着もありません。ですから、写真館で成人式用の衣装をレンタルして記念撮影をしよう、ということになりました。

息子と一緒に写真館に行き、フォーマルなスーツと、重厚な黒の羽織と袴の2つの衣装を借りて、2パターン撮影しました。息子は、スーツは仕事で着ていたようで着慣れていましたが、着物は照れ臭かったようで「馬子にも衣装って感じかな?」と、茶化しながら私に着物姿を見せびらかしつつ、撮影を楽しんでいました。出来上がった写真は、やんちゃ坊主だったあの頃が全く思い出せないほど、凛々しい成人男性になった息子が写っていました。

その写真を見る度、「あの時はこんなこともあったね」と、当時の息子の家出事件を笑い話にしています。